デンマークに行ったら、ぜひ訪れたいルイジアナ近代美術館。
北欧観光だけではなく、建築やデザインを学ぶ人たちにも人気のスポットです。
今回はそのルイジアナ近代美術館の魅力と、建築に隠された秘密を探ってみたいと思います。
『世界一美しい美術館』・ルイジアナ近代美術館
ルイジアナ近代美術館は、『世界一美しい美術館』と呼ばれています。
なぜそう言われるのか、実際に確かめてみたい、と、訪問される方も多いのではないでしょうか。
私がここを初めて訪れたのは、南デンマークの家具工場で研修をしている頃でした。
広大な草原に囲まれた家具工場の周りには観光スポットもなく、「せっかくデンマークに来たのだから」と、工場マネージャーが休日に連れて行ってくださいました。
当時の私は、ルイジアナ近代美術館について、デンマークの名建築家、ヴィルヘルム・ウォラート(Vihelm Wohlert)の代表作品、くらいしか知識がなく、到着した時、エントランスの簡素な雰囲気に「え?ここが世界一美しい美術館?」と拍子抜けしました。
しかし中に入ると「確かにこんな美術館、見たことない!」と驚きの連続。
テラスでゆったりとビールを飲んでいる人がいたり、芝生でゴロゴロしてる人、木にぶら下がっている子供たち、、、みんな美術館の中で思い思いの時間を楽しんでいます。
ルイジアナ近代美術館は、目の前にエーレスンド海峡が広がり、天気が良ければ対岸のスウェーデンのマルメが見える絶好の立地にあります。
芸術作品を楽しみながら、この素晴らしい景色と豊かな緑を楽しむ事ができる。
これがルイジアナ近代美術館の最大の魅力です。
バリアフリーデザインの真髄・北欧の名建築
平面図を見ると、展示室と外の庭園をつなぐ出入り口をが多く、いつでも好きな時に室内から出て、緑豊かな庭や海を眺めながら開放感を味わうことができます。
建物の内側の床と、外の地面の段差がほぼないフラットな作りになっているのも特徴です。
少し段差の見られる箇所もありますが、電動椅子ではほぼ問題ない程度で、車椅子でも簡単に行き来できるようになっています。
さすが、デンマークという北欧のお国柄、このルイジアナ近代美術館のバリアフリーデザインは特筆するものがあります。
普通、バリアフリーの工事といえば小規模のものが多く、工事業者が担当しますが、ここルイジアナ近代美術館では、ウォラート自身が他人に任せず、積極的に関わったそうです。
例えば、段差を解消する昇降リフトも彼自身がデザインしています。
この建築家としてのウォラート自身のバリアフリーデザインに対する姿勢が、とても興味深いのです。
気づかなかった!ジャコメッティ・ルームの秘密
ルイジアナ近代美術館の代表的なスポット、ジャコメッティルーム。
背景の池も作品の一部のような作りで、池と床面をできるだけ近くになるよう設計されていて、
この部屋に入ると、池と美しい緑を借景にジャコメッティの作品を見下ろす、とてもドラマティックな眺めを堪能できます。
さらに、階段を降りれば、ジャコメッティの作品にアプローチでき、、、
あれ?おかしい。
階段、なんです。
ウォラートは、ジャコメッティルームにはエレベーターは設置しませんでした。
約2.4mの段差は車椅子では近づけません。
やはりこの部屋を設計する時、バリアフリーに関して様々な意見が出て揉めたんだそうです。
ウォラートはバリアフリーにすることで失われる作品の世界観を、建築家として守りたかった、と語っています。
まずこの部屋は行き止まりになっていて、他の部屋と違って外と行き来する出入り口を設けていないこと、また、背景の池も含めて「見下ろす」視点が重要であること、などを挙げていました。
北欧バリアフリーの真髄がここに
私を連れて行ってくれた家具工場のマネージャーは、こう教えてくれました。
「ジャコメッティルームには階段しかないけど、それは車椅子の人や高齢の人を拒否しているのではなく、階段を降りるのに苦労している人がいたら、周りの人が担いで一緒に降りていきましょう、手を貸しましょう、それが本当のバリアフリーの精神ですよ。」
「車椅子ユーザーや高齢者を弱者としてとらえるのではなく、ともに生きる仲間だという意識がなければ、本当の北欧の福祉理念は理解できませんよ。」と言われました。
年間約50万人が来館するルイジアナで、ジャコメッティルームは一番人気のある部屋だそうです。
かつて『自然を活かす建築家』と紹介され、ウォラートはきっぱり否定しました。
まず建築デザインありきで、結果として自然が取り入れらているんだ、と答えた彼は、建築美に強いこだわりを持った人でした。
ルイジアナ近代美術館は、そんなウォラートの建築理論と、北欧の人たちに息づくバリアフリーの思想が見事なバランスで結晶した、素晴らしい北欧デザインだと思います。